
無痛分娩は、お産の痛みを和らげる安全性の高い方法です。しかし、どんな医療行為にもリスクはあります。日本ではこれまでに、無痛分娩に関連した死亡事例が数件報告されています。その原因として知られているのが、「局所麻酔薬中毒」と「全脊髄くも膜下麻酔」です。
今回は、これらの合併症について正直にお伝えするとともに、なぜ患者さんご自身のご協力が命を守ることにつながるのかをお話しします。
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局所麻酔薬中毒 —— 早期発見が生死を分ける
局所麻酔薬中毒とは、血液中の局所麻酔薬の濃度が過剰に高くなることで起こる合併症です。重症化すると痙攣・不整脈・心停止に至り、多くの施設では救命が非常に困難になります。実際、日本での死亡例の一件はこの合併症によるものです。
しかし、早期発見できれば救命は決して難しくありません。
鍵となるのが「自覚症状」です。局所麻酔薬中毒が軽症の段階では、検査や観察だけでは異常を見つけられないことがあります。しかし、この時期に患者さん自身が感じる症状があります。
- 耳鳴り
- 唇や舌のしびれ
- 口の中に金属の味がする
- めまい
これらの症状が少しでも現れたら、すぐにスタッフへお知らせください。私たちのほうからも定期的にお声がけしますが、この合併症は突然起こることがあります。「気のせいかな」と思っても、遠慮なく申し出ていただくことが、命を守る最初の一歩です。
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全脊髄くも膜下麻酔 —— 絶食が命綱になる
もう一つの合併症が「全脊髄くも膜下麻酔」です。これは、麻酔のカテーテルが通常より深く入りすぎてしまい、麻酔が全身に広がることで呼吸が止まってしまう状態です。
この合併症は、適切な人工呼吸を行えば救命は十分に可能です。本来であれば、気管(喉の奥の空気の通り道)にチューブを入れて人工呼吸器につなぐ「気管内挿管」が理想的な対処法です。しかし、産婦人科医は麻酔科医とは異なり、この処置を日常的に行っているわけではありません。加えて、妊婦さんは喉のあたりが浮腫んでいることが多く、本職の麻酔科医でも気管内挿管が難しいケースがあると言われています。
そこで私は、無理をしないことを方針としています。専用の器具(バッグバルブマスク)を口に当てて人工的に空気を送り込みながら、迅速に高次施設へ搬送する——これが私の選択です。万が一バッグバルブマスクでうまくいかない場合は、ラリンジアルマスクという器具を喉の奥に入れて気道を確保する方法も用意しています。気管内挿管のように気管の中まで入れる必要がないため、産婦人科医でも比較的対応しやすい方法です。自分のスキルの限界を正直に認め、産婦さんの命を最優先に考えた結果です。
⚠️ なぜ「絶食」が必要なのか
この人工呼吸には一つ大きなリスクがあります。胃の中に食べ物が残っていると、人工呼吸の際に胃の内容物が逆流し、気道に詰まってしまうことがあるのです。これが起きると、一気に状況が悪化します。
だからこそ、当院では無痛分娩中の絶食をお願いしています。多くの施設では行っていないかもしれませんが、私は麻酔科医ほどのスキルがない自分でも産婦さんを確実に助けられるよう、この方針を徹底しています。
🌿 患者さんへのお願い
無痛分娩の安全は、医療スタッフの努力だけでは守りきれません。
- 「耳鳴り・唇や舌のしびれ・金属の味・めまい」を感じたらすぐに申し出ること
- 絶食のルールを守っていただくこと
この二つが、万が一のときに命を救う力になります。
不安なことがあれば、いつでも遠慮なくご相談ください。皆さんに安心してお産に臨んでいただけるよう、私たちも全力で取り組んでまいります。






